雷保護対策とは、雷の影響に対して建物(含む人)を直撃雷から保護するシステムと建物内の電気・電子機器・設備類を雷サージから保護するシステムの両方を含む「総合的雷保護対策」を呼称します。
一般に、建物(含む人)を直撃雷から保護するシステムを「雷保護システム」と呼称し、“外部雷保護システム”と“内部雷保護システム”から構成されます。
また、建物内の電気・電子機器・設備類を雷サージから保護するシステムを、ここでは「雷サージ保護対策」と呼称します。
(LPS : Lightning Protection System)
雷保護システムは、建物(含む人)を直撃雷から保護するシステムです。
外部雷保護システム (外部LPS)
直撃雷(落雷)から被保護物(建築物等および人)を保護するシステムで次の要素で構成します。
① 受雷部システム:
② 引下げ導線システム:
③ 接地極システム:
突針等、直撃雷を受け止めるための金属体を総称します。
直撃雷を受け止めた受雷部から大地までの雷電流の経路を総称します。
具体的には、導線及び建築物の鉄骨・鉄筋などを引下げ導線として使用します。
電流を大地に流し拡散させるための銅板、接地棒、接地線等を総称します。
建築物の鉄筋コンクリート基礎などを接地極として利用することが推奨されています。
内部雷保護システム (内部LPS)
落雷を受雷部に受け止め建築物を保護することができても、落雷時、引き下げ導線に流れる雷電流により、外部LPSと建物内部の導電性部分(金属体)との間に電位差が発生します。
その電位差によっては、建物内で火災や爆発を起こすような有害な火花放電が発生します。
これらの危険を防止する対策には、雷等電位ボンディングと安全離隔距離の確保があり、これを「内部雷保護システム」と呼称します。
①雷等電位ボンディング:発生する電位差を低減するため、建物内の金属部分を導体又はサージ防護デバイスで接続することをいいます。
注)この方法は、後述の電気・電子機器・設備類の雷サージ保護システムにも非常に有効な方法となります。
②安全離隔距離の確保:発生した電位差でも火花放電が起きないように距離を離すか、または絶縁することをいいます。
(SPM : Surge Protection Measures)
現在の情報化社会は商業、工業のみならずあらゆる分野でコンピュータ、通信機器、制御システムなどの電気・電子機器・設備類の使用により機能しています。
これらのシステムが、落雷を受け機能を停止することは、社会的および経済的に極めて大きな影響を及ぼします。
したがって、雷の脅威から情報化社会の安全を確保することは国際的な重要課題となっています。
電子システムの基盤である半導体機器(電子機器)は、従来の電気製品に使用されている構成部品より、雷サージ(雷による異常電圧および異常電流)耐性が弱く雷の影響を受け破損しやすい部品で構成されています。
直撃雷(落雷)は、高エネルギー現象で数百MJ(メガジュール)のエネルギーを放出するのに比べ、電子機器は数mJ(ミリジュール)のオーダ一のエネルギーで影響を受け、電子機器を破損する恐れが多分にあります。したがって、電子機器を含む電子システム及び電気設備などを保護するためには、磁気遮蔽、雷等電位ボンディング、接地などを実施し、さらに雷サージの侵入経路ごとにSPDによる対策などを実施する必要があります。
注)用語 J=エネルギーの単位 1MJ≒0.28kWh 1mJ≒0.28μWh
雷サージの侵入経路
建築物内部に施設されている設備、機器を破損する雷サージの侵入経路は下記のとおりです。
1)電力線を通じて侵入する雷サージ
2)通信線を通じて侵入する雷サージ
3)地中に埋設されている接地システムより侵入する雷サージ(逆流雷)
4)落雷(直撃雷)したアンテナなどより侵入する雷サージ
5)建物または外部LPSなどに落雷して、建物の鉄筋、鉄骨等から誘導される雷サージ
雷サージの侵入経路ごとに適切な対策を施し雷サージによる設備・機器の被害を防止する必要があります。たとえば、電力線などの場合は建物への引込口のみならず建物内部においても適時、機器の保護に対応する雷等電位ボンディングを行い段階的に雷サージの侵入を阻止します。
すなわち、雷保護ゾーン(LPZ:Lightning Protection Zone)の考え方を採用して、多段階に対策することが雷サージの侵入を阻止する効果的な雷保護対策となります。
雷等電位ボンディング (EB : Equipotential Bouding)
建築物内部の設備、機器などの基本的な雷保護対策は、落雷や雷サージ侵入時に発生した電位差から電気・電子機器の絶縁破壊を避けるためサージ防護デバイスで雷等電位ボンディングを行うことです。
これは、最も効果的な雷保護対策として国際的に認知されIEC規格の基本的な考え方になっています。
雷等電位ボンディングの例示説明
中央に配置した板で二つに仕切られた水槽において、両方の水槽の水位が同じ場合には仕切板には圧力が加わりません。しかし、片方の水槽に水を追加して両水槽の水位に差が発生すると、仕切板には水位の高い方から低い方へ水による圧力が加わります(=電位差が発生)。この圧力が大きいか又は仕切板が弱い場合には、仕切板が破損してしまう(=放電して機器が破損する)危険が発生します。
そこで、水槽の底部分を管で接続する(=雷等電位ボンディング)と、水位の高い水槽の水は低い水槽へ移動して、両水槽の水位は同一になり(=等電位化)、仕切板に加わる圧力は同一となり、破損の危険はなくなります。
落雷時の雷電流により、建物内の金属部分や屋内配線と外部雷保護システムとの間に発生した“電位差”を低減するために、導線などを用いて接続する。すなわち、片側の水槽が大雨(=落雷)により水位が上昇しても、底部で接続されている管により水位が同レベルになるようにすることを、電気的には、“雷等電位ボンディング”対策と呼称します。
サージ防護デバイスと雷等電位ボンディング
建物内部の設備・機器は落雷時に発生する雷サージの侵入により破損され大きな被害を受けます。
電位差を発生させないためには、等電位ボンディングが有効な手段ですが、常時電気が流れている回路には相互を接続し等電位化を図ることは出来ません。なぜならば、電源や通信線に短絡や、地絡を発生させることになるからです。
そこで、常時は絶縁状態で、雷サージのような異常電圧の発生時にだけ動作し、サージ電流を大地に流す機能をもったサージ防護デバイス(SPD : Surge Protective Device)が必要になります。
この、サージ防護デバイスの選定には、侵入経路ごとに発生する雷サージの大きさを想定し、被保護機器の耐電圧特性を考慮することが必要になります。
なお、サージ防護デバイス(SPD)は、従来から「保安器」「アレスタ」「避雷器」などといわれている保護装置の総称です。
機器の雷サージ保護システムの構築手順
落雷時に発生する雷サージが建物内部の電気・電子機器および設備類へ侵入しないように可能な限り数段に及ぶ等電位化対策を講じて、設備機器類の雷被害を防止します。(図5-1を参照)
先ず、保護対象に対応する“雷保護ゾーン”を設定します。
雷サージの侵入を防止するために建物人口(A点)に雷等電位ボンディングを行います。
次に、A点で阻止できず漏洩した雷サージが内部の機器に侵入する恐れがあるので、これを阻止するため更に機器が設置されている部屋の壁等(B点)において雷等電位ボンディングを行い雷サージの侵入を阻止します。
重要な電子システムの場合は、更に内部の(C点)において雷等電位ボンディングを行い建物内部の更なる等電位化をもって雷被害の防止を図ります。
(1) 雷保護対策と規格の構成
(2) 雷保護システムに関連する法規および規格
①法規:建築基準法
第33条:高さ20m超過の建築物には有効な避雷設備を設けなければならない。
消防法
第10条:(危険物の貯蔵、取扱いの制限)4項:製造所、貯蔵所及び取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準なお、「危険物の規制に関する政令」に避雷設備が規定されています。
②規格:JIS Z 9290-1:2014「雷保護ー第一部:一般原則」およびJIS Z 9290-3:2019「雷保護ー第3部:建築物等への物的損傷及び人命の危険」
これらのJISは、IEC 62305-1 Ed.2(2010)およびIEC62305-3 Ed.2(2010)にMODの表現規格類で、世界的な雷保護専門家のコンセンサスが得られた最新の雷保護技術に基づいたものとなっている。そして、第1部は雷保護に関する共通項目と一般原則を規定したもので、第3部は、建物および人に対する雷保護に関する規格である。
(3) 機器の雷サージ保護システムに関連する規格
①JIS Z 9290-1:2014「雷保護 第1部:一般原則」およびJIS Z 9290-4:2016「雷保護ー第4部:建築物等内の電気および電子システム」
これらのJISは、IEC 62305-1 Ed.2(2010)およびIEC 62305-4 Ed.2(2010)に整合した規格類で、上記と同様に、世界的な雷保護専門家のコンセンサスが得られた最新の雷保護技術に基づいたものとなっている。そして、第4部は、建物内の電気および電子システムに対する雷保護に関する規格である。
②JIS C 5381「低圧サージ防護デバイス」規格群(JIS C 5381-11,-12,-21,-22,-31,-32・・・)
これらのJISは、IEC61643シリーズに整合した「低圧サージ防護デバイス(SPD)」に関する規格群であり、電源用SPDおよび通信・信号回線用SPDの性能および試験方法、並びに、選定および適用基準について規定した規格類である。また太陽光発電システムの直流側に接続するSPDに関しても規格化されている。さらに、これらのSPDに使用する雷防護部品を含めた雷防護部品に関する規格群も整備されている。