直撃雷(落雷)から建築物等を保護するために必要な“外部雷保護システム”の設置概念図を事務所ビル(RC造)を対象に下図に例示します。
留意事項:
落雷を外部雷保護システムの受雷部で捕捉し、建物を保護することができても、落雷時の雷電流により建物内に電位差が誘起し、その電位差により電子機器類が破損する恐れがあります。
電子機器類を保護するためには内部雷保護システムを設置し更に適切な機器の雷サージ保護システムを構築する必要があります。
(1)設置目的:外部雷保護システム(外部LPS)は“直撃雷(落雷)から被保護物(建築物等)を保護することを主目的”とする雷保護システム、即ち雷被害対策です。
(2)事前協議:被保護物に外部LPSを設置する場合、先ず建築主と雷保護専門技術者及び関係者が協議し被保護物の種類、重要度等から妥当と考えられる“雷保護レベル(LPL)”を選定し、これらに対応する外部雷保護システムを設計して被保護物に設置します。
LPLとは、JIS Z 9290-1に規定するもので、直撃雷を考慮した雷電流パラメータ(雷電流波高値)を4段階に分け、これをLPL Ⅰ〜Ⅳと称します。各区分は、落雷に関連する発生確率(表 6-1参照)を示しています。
表6-1 雷電流パラメータの限界値に関連する落雷の発生確率
[JIS Z 9290-1 表5]
雷電流パラメータをもつ落雷の確率 | LPL | |||
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | |
JIS Z 9290-1 表3に規定する最大値よりも小さい範囲 | 0.99 | 0.98 | 0.95 | 0.95 |
JIS Z 9290-1 表4に規定する最小値よりも大きい範囲 | 0.99 | 0.97 | 0.91 | 0.84 |
(表3の最大値より小さく、表4の最小値より大きい範囲の発生確率) | -0.98 | -0.95 | -0.86 | -0.79 |
表6-2 LPLに対応した雷電流パラメータの最小値及び関連する回転球体半径
[JIS Z 9290-1 表4]
捕捉の基準 | LPL | ||||
記号(単位) | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | |
最小電流波高値 | I(kA) | 3 | 5 | 10 | 16 |
回転球体半径 | r(m) | 20 | 30 | 45 | 60 |
表6-3 LPLによる雷電流パラメータの最大値[JIS Z 9290-1 表3]
電流パラメータ | 記号 (単位) | LPL | ||||
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | |||
第1正極性雷撃 | 電流波高値 | I (kA) | 200 | 150 | 100 | |
短時間雷撃の電荷量 | QSHORT (C) | 100 | 75 | 50 | ||
比エネルギー | W/R (MJ/Ω) | 10 | 5.6 | 2.5 | ||
時間パラメータ | T1/T2 (μs/μs) | 10/350 |
表6-2には、このⅠ〜Ⅳの4段階に対応した最小電流波高値が定めてあり、これが雷撃を受けない範囲(保護範囲)を決定するための理論、回転球体法の基本となる雷撃距離 r [m]を示すものでもあります。
備考:回転球体の半径 r は、r = 10×I0.65 の式で算出されます。なお、I は最小雷撃電流を示します。
LPLの選定は、その建築物等における諸条件を加味し、建築主の意向及び法規の照合により、LPLを選択する必要があります。
なお、建築物等に対しては、LPL Ⅳとし、それに対応したLPSのクラスを選択します。また、危険物施設及び爆発の危険を伴う建築物等に対しては、LPL Ⅰが原則です。ただし、雷から合理的な方法により保護されている場合、LPL Ⅱとすることができます。
(3)外部雷保護システムの構成要素
外部LPSは、受雷部システム、引下げ導線システム及び接地極システムの3つの要素により構成されます。
それぞれの概要を説明します。
なお、選択する“雷保護レベル”により、保護角度等それぞれの規定値が変動します。
1. 受雷部システム(図示記号:①②③④参照)
1)受雷部の目的は、直撃雷(落雷)を受雷部で捕捉し、建築物等を保護することにあります。
2)形状は、①突針(避雷針)・②水平導体(導線を屋根等に敷設)・④メッシュ導体(網目状に導線を屋根等に敷設)の3形状です。
被保護物の形状等により、これらを組合わせて設置します。
3)受雷部の保護範囲:保護範囲の算定基準は図 6-1及び6-2 に示します。
なお、選択する保護レベルにより、保護角度α、回転球体半径Rおよびメッシュ幅Wmの規定数値は変動します。
2. 引下げ導線システム(図示記号:⑤⑥⑦参照)
1)引下げ導線は、受雷部で捕捉した雷電流を安全に接地極システムへ流すための電路です。
2)配置:落雷時の建物内部の電位傾度を小さくし、接地電位傾度を一様にする目的で被保護物の外周に均等に設置します。
参考例示:引下げ導線の平均間隔は 、LPSのクラスI=10m・LPSのクラスⅣ=20mです。
3. 接地システム(図示記号:⑧参照)
1) 接地システムの目的:落雷があった場合、被保護物全体とその周辺の接地電位を一様にし、接地電位傾度を極力小さくして、被害の発生を抑制することにあります。
2)接地システムの接地極は、小規模建築物等に適している“A形接地極”(銅板、アース棒等を使用する)及び“B形接地極”=環状接地極(建物の外周に配線する)、網状接地極(建物の底面に網状の導線を設置する)及び構造体利用接地極(鉄筋コンクリート基礎を使用する等)の形態があります。