情報化社会は耐雷性の弱い電子機器類を多用して成り立っています。したがって情報化社会の進展とともに雷による被害が増加する傾向にあります。
一般的には“投資コスト対想定利益”は、事業経営上の重要な判断基準の一つになります。投資コストの配分は、図3-1の4つに区分した性能を基に設計を行います。建築単体の分野では、①安全のためのコスト、②健康のためのコスト、③効率のためのコスト、④快適性のためのコストの順に、建築内容が高度化すると順次増大します。近年の環境に対する人間の要求が次第に高度化しているのはその現れです。したがって、最低の条件である①の安全のためのコストには、“雷保護対策”の実施も含まれます。これを実施しないと、上位概念である建築の④快適性を実現することは出来ません。換言すれば、雷保護対策工事費はコストであり、想定利益とは雷による機器破損等の直接損失及び業務停止による逸失利益を防止できることであります。
本項では、雷保護対策施行の判断基準の参考として“雷による被害の実態”と雷保護対策としての“雷保護システム工事費”について記述します。
雷被害の実態を損害保険会社の調査データと雷被害アンケート調査結果について説明します。
損害保険会社の調査データ (落雷事故と保険指数)
落雷事故による設備機器などの被害に対する“支払保険金”を火災保険金に占める割合などで指数化した都道府県ごとの調査データを表3-1に示します。
このデータは、A損保会社1社が2000年度に算出した指数です。高い指数は火災保険金に占める雷被害に対する支払保険金が多いことを意味します。
表3-1 火災保険に占める雷被害額指数
順位 | 都道府県名 | 保険指数 | 順位 | 都道府県名 | 保険指数 | 順位 | 都道府県名 | 保険指数 | 順位 | 都道府県名 | 保険指数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 栃木県 | 2,373 | 13 | 大分県 | 851 | 25 | 香川県 | 385 | 37 | 秋田県 | 253 |
2 | 山梨県 | 1,627 | 14 | 埼玉県 | 726 | 26 | 島根県 | 363 | 38 | 京都府 | 245 |
3 | 長野県 | 1,476 | 15 | 山形県 | 695 | 27 | 静岡県 | 359 | 39 | 鳥取県 | 243 |
4 | 群馬県 | 1,292 | 16 | 福井県 | 690 | 28 | 宮城県 | 358 | 40 | 神奈川県 | 214 |
5 | 奈良県 | 1,245 | 17 | 茨城県 | 641 | 29 | 高知県 | 340 | 41 | 千葉県 | 210 |
6 | 富山県 | 1,230 | 18 | 岐阜県 | 555 | 30 | 滋賀県 | 309 | 42 | 兵庫県 | 202 |
7 | 鹿児島県 | 1,147 | 19 | 石川県 | 501 | 31 | 沖縄県 | 289 | 43 | 和歌山県 | 178 |
8 | 熊本県 | 1,049 | 20 | 岡山県 | 497 | 32 | 徳島県 | 277 | 44 | 北海道 | 167 |
9 | 福岡県 | 985 | 21 | 大阪府 | 455 | 33 | 広島県 | 274 | 45 | 山口県 | 111 |
10 | 福島県 | 979 | 22 | 佐賀県 | 455 | 34 | 岩手県 | 262 | 46 | 青森県 | 75 |
11 | 東京都 | 930 | 23 | 愛知県 | 441 | 34 | 三重県 | 262 | 47 | 愛媛県 | 56 |
12 | 宮崎県 | 874 | 24 | 新潟県 | 409 | 36 | 長崎県 | 259 |
注)保険指数:栃木県で例示すれば損保会社が支払った火災保険金10,000円の内、雷被害関係の支払保険金が2,373円であることを示します。
参考事項:A損保会社の情報
①損保業界全体の年間雷被害に関する支払保険金は1200億円程度である。
②保険の対象とならず被害者個人の破損機器の買い替えなどを含めば、雷被害額が1兆円に上ると推定される。
雷による年間被害金額(アンケート調査による)
月刊誌“安全と管理”2006年6月号に掲載された気象庁発表の“雷被害額”報告記事を紹介します。
1)気象庁がわが国の代表的な業種と企業を対象に落雷による被害実態をアンケート調査した。
2)業種は、電力・通信・鉄道等の事業会社を対象とすると共に夏季雷が多い栃木、群馬、埼玉及び冬季雷が多い富山、石川県では地方自冶体、警察、学校、病院、工場、銀行、保険会社なども対象として調査した。
3)アンケート総数780サンプルを基礎データとした。
表3-2 火災保険に占める雷被害額指数
単位:万円
業種 | 物的被害金額 | 補修金額 | 被害合計 | 被害合計 |
---|---|---|---|---|
オフィス | 295,786 | 12,740 | 308,526 | 4.9% |
工場 | 3,433,612 | 470,842 | 3,904,454 | 61.9% |
病院 | 55,699 | 9,443 | 65,142 | 1.0% |
学校 | 65,980 | 3,401 | 69,381 | 1.1% |
テレビ局 | 17,821 | 142 | 17,963 | 0.3% |
ラジオ局 | 999 | 181 | 1,180 | 0.0% |
CATV | 29,123 | 15,941 | 45,064 | 0.7% |
道路・河川 | 17,267 | 352 | 17,619 | 0.3% |
警察 | 9,765 | 2,133 | 11,898 | 0.2% |
地方自治体 | 42,347 | 3,793 | 46,140 | 0.7% |
風力発電所 | 2,531 | 296 | 2,827 | 0.0% |
iDC | 9,591 | 1,976 | 11,567 | 0.2% |
私鉄 | 6,142 | 13,121 | 19,263 | 0.3% |
JR | 4,573 | 59,504 | 64,077 | 1.0% |
通信事業者 | 127,149 | 12,603 | 139,752 | 2.2% |
電力会社 | 15,126 | 306,412 | 321,538 | 5.1% |
一般住宅 | 1,256,315 | 1,256,315 | 19.9% | |
合計 | 5,389,826 | 912,880 | *6,302,706 | 100% |
注)上表の年間被害額合計は約630億円である。但し、物的被害と補修費用のみの金額で操業停止等による2次被害額は含まれていない。
あらゆる業種全般にわたり雷被害を被っていることは、上表のデータから明白であり、ニ次災害を含めた年間の雷被害総額は1000億円から2000億円と推定されています(電気学会技術報告第902号:2002年)。
雷の脅威から今後、益々進化する情報化社会の安全を維持するためには本書のテーマ“雷保護対策の必要性”を理解し実務的な対応が急務となります。
落雷による被害写真
コンクリート及び外装タイルが破損地上に落下した。
雷サージの侵入により内部機器が焼損し機能が停止した。